歯髄温存療法とは?
歯の中心にある組織「歯髄(しずい)」は、単に“神経”という意味だけではなく、血管・リンパ管などの生きた組織が含まれています。この歯髄があることで、虫歯の進行時に「冷たいものがしみる」などのサインが出たり、免疫機能として感染に抵抗したりする役割を果たしています。
「歯髄保存治療」は、むやみに歯髄を取り除かず、できる限り歯の内部の神経や血管を残すことを目標にした治療です。歯髄を残すことで、歯の強度維持や本来の生理的機能を保つことが期待できます。
歯髄温存療法が必要となるケース
歯の虫歯が深く進行したり、強い衝撃で歯が破損したりした場合、通常は歯髄を取り除かなければならないことがありますが、状況によっては一部を残して守る治療が可能な場合があります。こうした場合に行うのが歯髄保存治療です。
ただし「闇雲に歯髄を残す」ことが必ずしも正解ではありません。無理に残した結果、歯髄の壊死や慢性炎症を招き、将来的に治療が難しくなる可能性もあるため、適応と判断が不可欠です。
歯髄温存療法の治療方法
歯髄保存治療では、次のような流れで進められることが一般的です
虫歯の除去
深い虫歯を丁寧に削り、どこまで歯髄に近づいているかを確認します。
歯髄の状態評価
小さく露出した歯髄の状態(健康か炎症があるか)を見極めます。
保護素材の選択
歯髄を覆い保護する材料として、MTAなどの生体適合性の高いセメントを使用します。
治療部位の封鎖・補修
歯髄保護処置後、適切な封鎖と修復を行い、その後の二次的な補綴物(最終的な詰め物や被せもの)で仕上げます。
これらの処置には、マイクロスコープ(拡大視野下での精密治療)が大きな役割を果たします。視野を拡大することで、歯髄の微細な状態を見逃さず正確な判断につなげられます。
また、当院では術前検査に力をいれています。歯髄電気診テストや冷診査テスト、温熱テスト、レントゲン検査などの検査を行います。
歯髄温存療法のポイント
■歯髄を残せるかどうかは、症状と診断の正確さが最重要です。
■治療中に歯髄の状態をリアルタイムで評価し、残すべきか除去すべきかを適宜判断します。
■全てのケースで歯髄保存が可能なわけではなく、逆に残すことで後のトラブルを招くリスクもあります。
■治療後も経過観察が大切で、痛みや炎症が続く場合には追加治療が必要になることがあります。
歯髄温存療法の注意点
■たとえ治療で歯髄を保存できても、術後に強い痛みが出ることがあります。
■痛みや症状の変化を見ながら、保存治療の継続や根管治療など次の選択肢を検討する必要があります。
治療の流れ
1診査・診断
問診
歯髄診断
X線・CT撮影による病変の有無がないか確認します。
歯髄の炎症が「回復可能」かを判断します。
2虫歯除去と感染管理
マイクロスコープや拡大鏡で精密に虫歯を除去します。
必要に応じてラバーダムを使用し、唾液・細菌を遮断します。
3覆髄・断髄処置
MTAなどを用いて神経を保護します。
炎症部位があれば必要な範囲のみ除去します。
4歯の修復
覆髄後の歯は繊細なため、適合性の高い修復が重要です。
咬合チェックを丁寧に行い、負荷を軽減します。
5経過観察
1か月〜半年の間隔で状態を確認します。
痛み・しみる症状・レントゲン所見をチェックします。
必要なら追加処置を検討します。
歯髄温存療法の成功率
文献的には約70〜90%程度とされ、材料や適応判断の進歩により結果は向上しています。
成功の鍵は以下の3点がポイントです
■正確な診断(可逆性炎症かを見極める)
■無菌化に近い状態での処置
■高い封鎖性をもつ材料の使用
絶対に神経を残せるわけではありませんが、従来なら神経を取る事になっていた症例でも温存できるケースは増えています。
歯髄温存療法の費用
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
|
歯髄温存療法:MTA使用 |
①1歯40,000円 〜55,000円 ②経過観察検査代(術後1年間)1歯1,000円 |
よくある質問
神経は確実に残せるんですか?
残念ながら成功率が70〜80%と、確実な治療とは言えない治療です。
失敗した時は痛い?
失敗した際、痛みが出ることもあります。逆に、失敗しても症状の出ないまま経過し、状態の悪化に気付かれないこともごく稀にある治療法です。 そのため、治療後は歯髄診断やレントゲン検査により定期的な経過観察が必須になる治療といえます。
神経を残したほうが本当に良いのですか?
可能であれば残した方が歯の寿命は圧倒的に長くなると考えられています。
神経を残した後、痛みが出たら?
経過観察の段階で根管治療に移行すれば問題ありません。早期対応が重要です。
歯髄温存療法は保険適用ですか?
使用材料により自費診療となるケースがあります。
